畳の歴史について – その起源から現代のトレンドまで
近年、インテリアにおけるJapandi Style(北欧スタイルと日本のスタイルを融合したもの)に対する人気の高まりとともに自宅のインテリアに和の要素を取り入れることを検討されている方も増えてきています。掛け軸、花瓶など様々な日本由来のアイテムがオーガニックかつミニマリスティックな空間を演出するうえで有効ですが、そんな中でも畳はその自然素材がもたらすリラックスした雰囲気のみならず断熱性や遮音性といった機能的な面からも注目を集めています。また、従来型の畳では施工時に寸法を合わせて建築材として導入しなければならないといった敷居の高さもありましたが、近年フローリングの上に敷物のように敷くだけで利用できる畳マットの普及も後押しして、本来和室でなければ導入が難しかった畳も非常に気軽にインテリアに取り入れることが可能となってきました。
このように近代西洋建築にもカジュアルに取り入れることが可能となった畳ですが、その生まれ故郷の日本では非常に長い歴史を持っていることはご存じでしたでしょうか?本日はそんな畳の生い立ちから、様々な紆余曲折を経てどのように西洋のインテリアと融合してきたのかを時系列にご紹介したいと思います。
INDEX
畳はいつ頃生まれたのか?
まず、いわゆる「畳」と呼ばれるものがどのような要素で構成されているものなのかを簡単に説明しましょう。畳の構造は大きく分けて「畳表」「畳床」「畳縁」に分かれます。畳表は私たちが住空間で設置する畳の表面を覆っている部分で、主にイグサという植物が素材に使用されます。畳床は畳の芯材となる部分で稲藁が素材として用いられています。稲藁が畳床の素材として選ばれたのは、やはり日本において稲作が盛んだったこととは切っても切り離せないでしょう。最後に畳縁ですが、こちらは畳表を畳床に固定するために使用します。ただし、琉球畳のように縁のないタイプの畳も存在します。なお、畳一枚の大きさは日本の地域によって異なるのですが、例えば関東地方で使用される畳(江戸間)は縦5 ft 9 inの横2 ft 11 inになります。ちなみに、日本には漢字やラーメンなど元々は中国から伝わってきたものが国内で発展したケースが多いのですが、畳に関しては日本で生まれた固有の文化となっています。ですので、畳がインテリアにもたらす印象は非常にユニークなものとなります。
さて、このような特徴を持つ畳ですが、まず「畳」という言葉が初めて使用された文献をあたってみましょう。それは、日本最古の歴史書と呼ばれる「古事記」です。ちなみに古事記は712年に編纂されていますので、今からおよそ1,300年前には畳というコンセプトは既に日本で存在していたことになります。ただし、このころの畳は私たちが認識している現代の畳とは少しかけ離れたもので、それは薄い敷物のことを指していたようです。これは、畳という言葉の語源が「たたむ(to fold)」から来ていることからもうかがえます。現代の畳は厚みを持っているので、とてもじゃないですけどたためませんからね。ちなみに稲藁を用いて本格的に畳床を作成するようになったのは14世紀ごろのようです。また奈良県東大寺にある正倉院には現存する最古の畳が保管されています。こちらは聖武天皇(701~756年)が就寝時に使用していたとされるもので、このことから8世紀には畳の原型と思われるものは日本に存在していたといえそうです。
置き畳から敷き畳へ
このようにして生まれた畳ですが、当初は貴族など高貴な身分の人々のみが使用できるものでした。さらにこの貴族の中でも位によって使用できる畳の厚さや畳縁の模様に規定があったということなので、畳は生活に快適さをもたらすクッションという役割と同時に権威の象徴という側面も持ち合わせていたことがわかります。ちなみに現代の日本でも畳縁を踏むことはマナー違反とされていることがありますが、古くは畳縁の模様が貴族の位を表すためであったことが理由として挙げられます。
さらに興味深いこととしては、貴族文化華やかなりし平安時代(794年 – 1185年)においては貴族の邸宅は板の間で構成されており、そこで畳は座具や寝具の用途で置き畳として使用されていたことです。これは現代の畳マットの使用法と酷似しています。
このように、畳はまず置き畳としての使用が一般的であったのですが、この状況からどのように部屋に敷き詰める様式の畳が受け入れられていったのでしょうか。畳が部屋に敷き詰められるようになったのは、鎌倉時代(1185年 – 1333年)末期から室町時代(1336年 – 1573年)にかけてと言われています。初めは居住者が車座になって座る際にいつも座る場所が決まっていたため、その場所のみに畳を敷く「廻り畳」という敷き方が採用されていましたが、いつしか部屋全体に畳を敷き詰める様式に変化していきました。畳を敷き詰めるためには建築設計のタイミングから畳サイズを規定するか、もしくは既存の住環境に畳を実装する場合は既存の住環境サイズからユニット当たりの最適な畳サイズを割り出す必要があり、いずれにしても置き畳のシンプルな延長線上の発想から考案できる廻り畳からかなりの技術的革新があったことが想像されます。残念なことにこのブレイクスルーを記録する文献は残されていないのですが、それでも当時の畳職人の技術力の高さには感心するばかりです(そんな畳制作技術ですが2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録されたようです)。
さらに室町時代には千利休が広めた茶道の影響で、茶室を組み込んだ住居が多く現れます。このような住居のことを「数寄屋造り」と呼びます。茶の湯やその他風流を好む人々を「数寄者」と呼ぶのですが、数寄屋造りはそこから名づけられています。現代流に解釈すれば、数寄者は趣味に没頭している人ということになるでしょうか。茶室には敷き詰められた畳が採用されていたので、このことがさらに畳の需要を後押しすることになります。
畳の普及から最新の畳まで
先に述べた通り、畳は権威の象徴として使用されてきた経緯もあって長らく一般大衆にまで浸透することはありませんでした。江戸時代(1603年 – 1868年)に入っても、畳奉行と呼ばれるお城の畳を管理する役職が存在することからもうかがえるように、まだまだ畳と権威は切っても切れない関係にありました。畳が一般大衆に広まるきっかけとなったのは、主に武家社会において嗜まれてきた茶道が町人階級にも広まってきた江戸時代中期ごろだといわれています。経済的にも裕福になった町人が自宅に茶室を取り入れ始め、そこから庶民にとっても畳が一般的なものとなっていったようです。ちなみに日本独特の座り方である正座も畳の普及に伴ってこの頃に広まったといわれています。
ただし、江戸時代に普及した畳もその範囲は都市部に限定されていました。畳の普及が広く農村にまで浸透するのは、明治時代(1868年 – 1912年)に入ってからだといわれています。明治時代に入ってこれまで規制の対象であった畳縁の柄などの使用に関する規制が解かれたことも、畳の普及に一役買っているのではないかといわれています。そう、畳自体はその誕生から長い歴史を持っているのですが、一般家庭にくまなく普及してから現在まで実はそれほど年月が経っていないんです。
そこからの畳需要は増加の一途をたどります。特に需要が爆発したのが、第二次世界大戦後の高度経済成長期です。住宅建設ラッシュに伴い、畳の需要もうなぎ上りとなります。この頃はすでに洋風建築が日本で浸透していましたが、そんな中でも日本人の生活様式として定着している畳が敷き詰められた和室の需要は衰えることがありませんでした。あまりの畳需要の高さに畳床の原料である稲藁の供給が追い付かず、ポリスチレンフォームやインシュレーションボードなど新素材の開発、採用が盛んになったのもこの頃です。
そんな大人気の畳でしたが、その人気に陰りが出始めたきっかけが日本の住環境におけるフローリングの浸透でした。畳を用いた和室に比べてコスト面で勝るフローリングは、洋式の居住スタイルに慣れた若い世代にとっては魅力的な選択肢となります。その上伝統的な畳が抱える「自然素材であるがゆえにカビや虫よけ予防の手間がかかる」「ペットなどによって傷つきやすい」「洋室への導入が困難」などのデメリットも次第に浮き彫りとなってきました。半面、「断熱性や遮音性が低い」「床でくつろげない」などフローリングが抱えるデメリットも明確となり、この両者を解決できる方法が待ち望まれていました。
そこで近年登場したのが、従来の畳が持つ断熱性や遮音性を保ちながら、洋室への導入も置くだけで簡単に行うことのできる「畳マット」です。洋室との相性も抜群なうえ色展開も多彩で自分好みのインテリアコーディネートが容易なことから、現時点で自宅の洋室に和の要素をアクセントとして取り入れるとしたら、選択肢には必ず入れておきたいアイテムとなっています。
なお、Interra USAでも洋室との相性を踏まえて設計された畳マットを数多く取り揃えてますので、興味のある方はぜひ以下のリンクからチェックしてみてくださいね。
終わりに
今回は駆け足で日本独自の床材である「畳」の歴史について紹介してみました、いかがだったでしょうか?なんとなく長い伝統を持っていそうなアイテムであることは皆様の認識の中にあったかもしれませんが、日本で一般大衆に浸透したのが実はごく最近だったと知って驚かれたのではないでしょうか。また、ピンポイントで置き畳として使用していた平安時代から部屋一面に畳を敷き詰める様式の隆盛を経て、再度現代においては置き畳が復興するという畳の設置方法における原点回帰が観察されている事も興味深い点といえます。
今回紹介した情報が、自宅に畳を導入する際の一つのヒントになれば幸いです。次回の記事でも畳に関する興味深い記事を用意してますので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。
参照リンク:
畳 – Wikipedia
寝殿造 – Wikipedia
書院造 – Wikipedia
数寄屋造り – Wikipedia
小学生でもわかりやすい畳のお話と畳の歴史年表 | さわはた畳屋
畳の歴史はここから
畳の歴史。日本人はいつから畳を使っている?日本の畳の歴史について徹底解説! – イケヒコのインテリアブログ
畳の歴史 | 熊本県畳工業組合
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【畳の歴史と特徴・利点を詳しく解説!】琉球畳などおしゃれな現代畳のトレンドもご紹介! – 家美装 – IEBISOU –
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